谷藤特許事務所の未来模索ブログ

いつも未来を模索しているちょっと変わった弁理士のブログです。突っ込み大歓迎です。一緒に未来の巨大ブルーオーシャンを先取りしませんか。

先読み式イノベーション(その2)

 前回は、「未来型ブルーオーシャン(5年先に生き物であふれかえるおいしい海)をいかにして予測するか」で終わりました。その予測の手段として「先読み式イノベーション」という概念を提唱します。先ずは、分かりやすい具体例を物語り風に記載します。

  1895年米国テキサス州に住む青年実業家のジョンは他人と同じことをやるのが嫌いな変わり者である。実業家としての先見の明があり金儲けの才能だけは折り紙つきだ。朝新聞に目をやるとジョンは次の記事にくぎ付けになった。「画期的な石油掘削技術ロータリー掘削法で深度100メートルを掘り抜くのに成功!」

 そのときジョンの金儲けの臭覚が大きく反応し思わず叫んだ。「また金のなる木を見つけたぞ! これからはこのロータリー掘削法で世界中の石油を掘削する時代になるはずだ。ロータリー掘削法を応用した掘削機械を開発して売出せば儲かるぞ。」

 しかしジョンは考えた。掘削機械の開発販売は資本力マンパワーのある巨大企業が我先に開発するレッドオーシャン(血で血を洗う競争の激しい領域)だ。競争が激しすぎて薄利多売に陥りやすい。だったらそのようなビジネスは他人に任せよう。

 それでは、もう少し未来を先読みしてみることにする。ロータリー掘削法による掘削機械が普及すれば、掘削された石油が大型船舶により世界中に輸送されて貿易される時代がやってくるはずだ。そうなると、大型船舶がパナマを通過できるようにしてほしいというニーズが将来生まれるはずだ。だから、パナマに大型船舶が通過できる運河を造ろう。通行料を取れば儲かるぞ!

 

 先読み式イノベーションとは、将来新たに生まれる巨大ニーズを推理しその未来のニーズに応えるためのイノベーションです。

 先読み式イノベーションの利点は、薄利多売の価格競争となりやすいレッドオーシャンを避けて早い段階から開発に着手し、先行者利益を独占することによりオンリーワンの地位を築きやすい点です。

 イノベーションに詳しい人だと、上記ジョンの話を読んで、「新市場型の破壊的イノベーション」とどこが違うの? と疑問を持たれるかもしれません。ここで少し、既存のイノベーションの概念を説明しておきます。

 ハーバード・ビジネススクールのクレイトン・M・クリステンセン氏が提唱したイノベーションには、持続的イノベーションと破壊的イノベーションとがあり、破壊的イノベーションにはローエンド型と新市場型とがあります。

  持続的イノベーションとは、従来製品の改良を進めるイノベーションのことです。

 破壊的イノベーションとは、確立された技術やビジネスモデルによって形成された既存市場の秩序を乱し、業界構造を劇的に変化させてしまうイノベーションのことです。

 持続的技術による性能向上が繰り返され、製品性能が市場ニーズを超えて過剰になると、低性能/低価格の製品を受け入れる素地が整うことになります。こうした既存市場よりも下位に当たる市場を狙う破壊的イノベーションを「ローエンド型破壊」と呼よびます。これに対して、価格以外の価値基準で評価される破壊的イノベーションを「新市場型破壊」と呼びます。

 新市場型の破壊的イノベーションの例としては、デジタルカメラが挙げられます。デジタルカメラは「その場で見られる」「パソコンに保存できる」という新しい性能を提供することで、従来のカメラとは異なる需要を創造しました。

 

 先読み式イノベーションと新市場型の破壊的イノベーションとの共通点は、両者共にブルーオーシャンをターゲットにしている点です。

 一方、相違点としては、先読み式イノベーションは新市場型の破壊的イノベーションと比べて次の2点で相違します。分かりやすくするために、前述のパナマ運河の話を基に説明します。

 ① パナマに運河を造ったところで、既存市場(石油掘削機械の市場)をなんら破壊しない。むしろ、石油掘削機械の市場が発展して大きくなればなるほど、パナマ運河も発展するという、共栄関係にある点。

 ② 現時点では市場すら存在せず、石油掘削機械の市場が発展することによってパナマ運河市場が新たに生まれてくる点。

 

 新市場型の破壊的イノベーションが対象としている「新市場」を未来世界で新たに誕生する未来市場に定めたものが、この先読み式イノベーションです。

 未来はテクノロジーと人間のニーズとの相互作用によって作られます。テクノロジーは人間のニーズを満たすために進化します。一方、人間のニーズはテクノロジーの影響を受けて変化します。両者が複雑に絡み合って未来が出来上がります。よって、未来を先読みするためには、先ず人間のニーズに関する研究をする必要があります。

 次回は、この人間のニーズを把握する上で必要不可欠となる「人の心理的活動に潜む意外な法則」について、解説します。