谷藤特許事務所の未来模索ブログ

いつも未来を模索しているちょっと変わった弁理士のブログです。突っ込み大歓迎です。一緒に未来の巨大ブルーオーシャンを先取りしませんか。

先読み式イノベーション(その3)

やかんを買いに来た客はやかんが欲しいから買いに来たわけではない。これは、人の心理的活動に潜む意外な法則の1つです。

  人は、行動の前提として目的(根底的欲求)があり、その目的を達成する手段(行動パターン)を選んで行動します。そして、目的(根底的欲求)は変化しませんが、手段(行動パターン)は周りの環境(テクノロジー)によって変化します。よって、イノベーションを開発するにあたっては、何が目的(根底的欲求)で何がその目的を達成する手段(行動パターン)であるかを見極めることが肝要となります。

  「そんなこと、どっちでもよいではないか」と思われるかもしれませんが、これがイノベーションを開発する上での重要なキーになります。分かりやすい例えを1つ挙げます。

 スーパーにやかんを買いに来たほとんどの客は、やかんが欲しいから買いに来たのではなく、いつでも手軽に熱湯を手に入れたいからやかんを買いに来ます。つまり、「熱湯が欲しい」が目的で、「やかんの購入」はその目的を達成するための手段(行動パターン)にすぎません。

 よって、「いつでも手軽に熱湯を手に入れたい」という目的をより叶えてくれる瞬間湯沸かし器を開発して売出せば、ヒット商品になります。

 しかし、客の中には、「やかんの購入」自体が目的の人もいます。例えば、やかんコレクターで世界の珍しいやかんを集めることを趣味にしている人です。そのような客に向かって、瞬間湯沸かし器を勧めても効果はありません。

 SNS等での若者のつながり願望も同じことが言えます。つながり自体は目的ではなく他に目的があり、その目的を達成するための手段(行動パターン)として「つながる」のであれば、その目的を叶えてくれるより良い手段を別に開発すれば、ヒットします。現在のSNSを凌駕する大ヒット商品に案る可能性があります。逆に、つながること自体が目的であれば、ヒットしません。

 このように、ヒットするイノベーションを開発するには、何が目的で何がその目的を達成する手段(行動パターン)であるかを見極めることが重要です。

  「そんなこと簡単だ。ユーザ(客)に直接質問すればよいではないか」と思われるかもしれませんが、実際はそう簡単ではありません。

 前述のやかんの例えで説明します。瞬間湯沸かし器のない時代を想像してみてください。その時代に、「あなたはやかんが欲しいからやかんを買いにきたのですか。それとも目的は別にあってその目的を達成するためにやかんを買いに来たのですか。」と尋ねたとします。すると必ず次のような答えが返ってきます。「やかんが欲しいからやかんを買いにきたに決まっているだろう。分かりきった質問をするな。」