谷藤特許事務所の未来模索ブログ

いつも未来を模索しているちょっと変わった弁理士のブログです。突っ込み大歓迎です。一緒に未来の巨大ブルーオーシャンを先取りしませんか。

先読み式イノベーション:未来を先読みするための「テクノロジーとニーズの相互作用の法則」

 テクノロジーとニーズは相互に影響し合いながら複雑に変化します。

 

 テクノロジーはユーザのニーズを満たすために開発されます。ところがユーザのニーズは提供されたテクノロジーによって変化します。その結果、テクノロジーとニーズは相互に影響し合いながら複雑に変化していきます。これを「テクノロジーとニーズの相互作用」と呼びましょう。以下に具体例を示します。

 

 マズローの欲求の階層説(生理的欲求→安全欲求→愛情欲求→尊敬欲求→自己実現欲求)での最上位階層に位置するのが「自己実現欲求」です。この「自己実現欲求」を満たすための具体的手段(行動パターン)が、インターネット(特にSNS)の普及により変化しました。

 インターネットの普及以前では高級ブランド品や高級外車等の購入が流行しました(記号消費)。このような行動を起こす動機付けは、主に、自己実現に成功した証のため、また他人から尊敬され認められたいためと思われます。この時代は「モノで自分を語る」から「モノ語り消費」とも言われていました。つまり、この時代では、「自己実現欲求」を満たすための具体的手段(行動パターン)は主に経済的成功を成しとげることでした。言うなれば金銭的物欲の時代です。

 

 一方、インターネットの普及以降では、草食系男子という言葉が流行り、若者の草食化が指摘されるようになりました。また若者の消費離れも指摘されるようになりました。さらには、若者の「社会貢献志向」が高まりました。「自己実現欲求」を満たすための具体的手段(行動パターン)は、NPO等による社会貢献活動にかかわることを通じて、人や社会やコミュニティとつながりを持ちたいという「社会献志向」に変化してきました。

 

 第一生命経済研究所の主任研究員北村 安樹子氏は、Life Design REPORT 2008.3-4により、次のように述べています。

 「企業による新卒採用の動きが活発化しつつあるなか、近年ではNPO社会的企業といった組織が若者の関心を惹きつけている。・・・NPO従事者ではNPO収入の有無にかかわらず、「いろいろな人や社会とのつながりをもちたい」「自分の能力や可能性をためしたい」「仕事を通じて達成感をえたい」「社会のために貢献したい」といった、自己実現や社会貢献に関する理由をあげる人の割合が同世代の企業従業員に比べて大幅に高い。」

 また、若者はなぜ「繋がり」たがるのか(武田徹著)には次のことが述べられています。「社会的地位の確立しない若者は、自らの社会への参加と社会や仲間社会からの認知をより強く確認したがる。」

 

 以上のことから次のような言葉が出てきます。「つながり願望」「社会貢献志向」「自己実現」「認知」

 ここで、どれが目的(根底的欲求)でどれが具体的手段(行動パターン)かを見極める必要があります。1番根底にある欲求はなんと言っても「自己実現欲求」でしょう。

 それでは、「つながり願望」「社会貢献志向」「認知」では、どれが目的(根底的欲求)側に位置しどれが具体的手段(行動パターン)側に近いのでしょうか。

 私は、「認知」を満たす具体的手段(行動パターン)として、「つながり願望」や「社会貢献志向」が出て来るのだと考えています。つまり、社会や仲間から認知されたいという「認知欲求」が目的(根底的欲求)側に位置し、「つながり願望」や「社会貢献志向」が具体的手段(行動パターン)側であると考えています。

 

 次に、若者の根底的欲求を満たすための手段(行動パターン)が「つながり願望」や「社会貢献志向」に変化したことがテクノロジーに影響を与え、それらの行動パターンを支援するためのテクノロジーが発展しました。それがSNSです。

 SNSの発展がさらに若者の行動パターンに影響を及ぼし、つながり願望と社会貢献志向とがますます増殖する一方、金銭的物欲がますます減少しました。その結果、若者は「つながり願望」や「社会貢献志向」を直接満たしたくれるSNSに走り、モノ自体を消費しなくなりました。

 

 なお、金銭的物欲(記号消費)からつながり願望(つながるための消費)へのニーズの変化が生じた理由については、佐々木俊尚著キュレーションの時代(ちくま新書)の第二章:背伸び記号消費の終焉で詳しく解説されています。私の価値観のフィルタを通して要約すれば、次のようになります。

 「インターネットが普及した環境に長年住むことにより、CGM(コンシューマー・ジェネレイテッド・メディア)が興りビオトープが多発して情報の流れが千差万別化した結果、上流から下流へと情報を流すマスメディアが衰退し、そのマスメディアの存在を大前提としている記号消費が消滅した。その結果、金銭的物欲(記号消費)からつながり願望(つながるための消費)へとニーズが変化した。」

 

 結局以下のようになります。

 ① 根底的欲求としての自己実現欲求を満たすための行動パターンとして、金銭的物欲で記号消費を行なっていた時代に、インターネットが登場し、若者の行動パターンに影響を及ぼしました。

 ② その結果、若者の行動パターンが、「認知欲求」とそれを満たすための具体的手段(行動パターン)としての「つながり願望」や「社会貢献志向」に変化しました。その行動パターンの変化がテクノロジーに影響を与え、「つながり願望」や「社会貢献志向」をよりダイレクトに満たすテクノロジー、すなわちSNSが発展しました。

 ③ そのSNSがさらに若者の行動パターンに影響を及ぼし、「つながり願望」と「社会貢献志向」とがますます増加する一方、金銭的物欲がますます減少しました。その結果、若者は「つながり願望」や「社会貢献志向」を直接満たしたくれるSNSにどっぷり浸かり、モノ自体を消費しなくなりました。

 

 以上をまとめれば、

 a ニーズの変化=行動パターンの変化

 b 根底的欲求は変化しないが、ニーズ(行動パターン)は与えられたテクノロジーによって変化する

 c ニーズ(行動パターン)の変化がテクノロジーに影響を及ぼし、テクノロジーが変化する

となります。

 

 上記bを逆に言うと、人間を取り巻くテクノロジー環境により「根底的欲求を満たすための手段(行動パターン)」の変化の方向をコントロールすることが可能ということになります。つまり、「ニーズ変化の法則」を研究すれば、どのようなテクノロジーを提供するかによって未来のニーズをコントロールできるようになるかもしれません。これが可能になれば、「未来のニーズ」は、予測するものではなく創り出すものとなります。その結果、計画的に先読み式イノベーションを開発できるようになります。この未来ニーズをどのようにしてコントロールするかについては、私も未だ解明できておらず、現在研究中のテーマです。