プラットフォーム化の法則
森の生態系の頂点に君臨する王者よりも強いものは森自身!
■プラットフォームとは
ここでのプラットフォームとは、OS(オペレーティングシステム)のことではありません。プラットフォームの言葉本来の意味は、平らに盛り上がったところを指し、それが築かれてはじめてその上部のものの構築に手をつけられるものです。ここで用いるプラットフォームは、その上で個人や企業が様々な活動を展開する場の意味です。
プラットフォーム化の法則とは、イノベーションを実際にビジネス展開していく上ではプラットフォーム化するのが有利であるという法則です。
プラットフォーム化の過去の例としては、amazonのウェブサービスが有名です。amazonは、自社で蓄積している膨大な商品情報のデータベースを広く開放し、個人やベンチャーが、amazonの提供したAPIを利用してamazonの商品を売ることができるようにしました。これにより、多くのウェブアプリケーションが生まれ、その新たなウェブサイトを通じて行なわれる購買行動に対して、amazonが手数料を得るビジネスモデルが構築されました。プラットフォーム化によるamazonの狙いは、「誰もがamazonのプラットフォームに寄生しなければ生きていけない世界を作り出すこと」だったようです。
他の例としては、アップルの「AppStore」が有名です。アップルからはiPhoneのソフト開発キット(SDK)が公開されていて、このSDKを利用して開発されたソフトをアップルに申請すれば、審査の上でAppStoreで販売されます。
このAppStoreに対抗するべくグーグルはAndroid Marketという同様のアプリケーション流通・販売プラットフォームを構築しました。
■プラットフォームビジネスの利点
多数のプレイヤーが活動しやすいプラットフォームを構築すれば、その上で多数のプレイヤーを活動させることにより、プレイヤー自身が利益を得るとともに、プラットフォーマーにも手数料が入る仕組みができます。特に、他者に先駆けてプラットフォームビジネスを巨大化することにより、それがデファクトスタンダードとなり、プラットフォーム市場の独占が可能となる点が有利です。
プラットフォームのさらなる利点としては、プラットフォーム上にエコシステム(生態系)ができ、市場での自由競争原理に従った自然淘汰により、市場ニーズにマッチした製品やサービスに進化させることができる点です。
例えばAppStoreの場合、AppStoreというプラットフォーム上に、個人プログラマー、アプリ制作会社、アプリ発注会社、アプリ受注制作会社、インキュベータ(例えばKDDI ∞ Labo)等の種々のプレイヤーが活動しています。これらのプレイヤーから成るエコシステム(生態系)から日々たくさんのアプリが生まれますが、そのアプリの大半は市場での自由競争原理に従って自然淘汰され、進化して残ったアプリのみがヒットします。
良いものかどうかを決めるのは、会社内の企画部や技術開発部ではなく、消費者(ユーザ)です。良いものが売れるのではなく、「売れるものが良いもの」なのです。良いものを作ろうとするのではなく売れるものを作ろうとすべきです。
プラットフォーム上でのエコシステム(生態系)内で自然淘汰され進化して残ったアプリは、まさに消費者(ユーザ)が選んだアプリであり「売れるアプリ」です。
プラットフォーム上でのエコシステム(生態系)は、「良いものではなく売れるものを作るための生産工場」と言えます。
■ヒットを狙うには一発方式からマシンガン方式へ
一般的にいって、組織が大きくなればなるほどイノベーション開発手法は、「狙いをすました一発方式」になる傾向があります。長時間かけて何度も会議を繰り返して市場ニーズを絞り込み、必ず命中するまで狙いを絞り、その上で一発撃つというやり方です。その典型例が、過去日本政府が推進してきたシグマ計画、第五世代コンピュータ、情報大航海プロジェクト等です。この「狙いをすました一発方式」の場合、市場ニーズにマッチしない無用の産物をつくり出す危険性があります。
近年、ニーズの多様化が原因で、市場ニーズが見えにくくなっており、しかも、すぐに変化して移り変わる傾向があります。よって、このような性質を持つ近年の市場ニーズを射止める最良の方法は、市場ニーズの大まかな位置が分かった段階で、その市場ニーズが変化する前に間髪をいれず多数の弾丸を撃ち、そのうちのいずれかが命中するという、「数撃ちゃ当たるマシンガン方式」です。つまり、多数のトライ&エラーを繰り返さなければ、市場ニーズを射止めることはできません。
この「マシンガン方式」に最適なシステムがプラットフォームです。プラットフォーム上で活動する多数のプレイヤーが多数の弾を撃ち、自由競争原理に従った自然淘汰により、市場ニーズにマッチした製品やサービスだけが生き残ります。
プラットフォーム側は、このような自然淘汰の厳しい生態系内に足を踏み入れることなく利益を享受できるというメリットがあります。
つまり、森の生態系の頂点に君臨する王者よりも強いものは森自身ということになります。